愚か者の戯言 ウエスの強み

2017.06.16

かつて回収された故繊維はさまざまなものに姿を変えて再利用されていたが、今ではほとんど古着として再使用される。
ほんの僅かな上質なものは国内で、そしてそのほとんどは海外へ輸出される。
中古衣料輸出が活況を呈していた頃、それは膨大な富をもたらし、故繊維業界を潤した。
しかしその富を追い求め選別量の拡大を急ぐあまり、その他はすべて切り捨てるという副作用をもたらした。
様々な利用方法は見捨てられ、それら多くは「ゴミ」として処分された。
そしてウエス材もまた利潤を生む源泉ではなく、早く目の前から消えてもらいたい邪魔物と化した。
かつてウエス業者がぼろ儲けをしていた時代、選別業者よりウエス業者の方がえばっていた。
お金を出して物を買う方が立場が強いのは経済的に自然なことだ。
しかし、中古衣料の利潤で富を得て力を付けた選別業者はウエス業者により早くより多くのウエス原料を消費するように迫った。
一方で顧客の要望に合わせてウエスを作るウエス業者はそれを拒んだ。
それがウエス市場を破壊すると本能的に知っていたからだ。
選別量を拡大し倉庫に積み上がるウエス材を前に、選別業者は決断する。
裁断機を購入し切工を雇いウエスの自社生産を始める。
ウエスで利潤など求めない。裁断コストだけあがなえればよい。利潤は中古衣料で確保しているのだから。
選別業者の快進撃は続く。
ウエス業者は原料を購入し工賃を賄い一般管理費も出した上で利潤を求めなくてはいけない。
はじめから勝負になどならない。
瞬く間にウエス業者は淘汰されてゆく。
ウエス材を捌いた選別業者はますます選別量を伸ばして富を積み上げてゆく。
こうして故繊維業者は自らの手でウエス市場を破壊し、全く利益の出ない草刈り場とした。

しかし、しかしである。
例え草刈り場と化してもウエス市場は生き残り、ウエス材が「ゴミ」として処分されることはなかった。
布だから、糸を紡ぎそして織り・編んだ布だからこそ持つその強さとしなやかさ。
いくら強く擦っても破けない強靭さは布だけが持つ特性だ。
手になじむしなやかさもまた布の良いところだ。
平織・メリヤス・タオル、様々な素材は「拭く」という様々な場面にしなやかに対応する。
早く大量に吸い取りたい、細かなふき取り作業をしたい、綺麗になったかどうか確かめたい、様々な要求に的確に応える。
さらに、各家庭で何度となく洗い晒されて油分の抜けた生地は拭き取り能力を格段に強める。
そして何よりリサイクル品であるがゆえに実現できる「新布」とは比較にならないコストパフォーマンス。
さらに言えば、市場規模を満足させる供給能力もまた見過ごせない。

そんな代替の利かない商品だからこそ生き残った、市場はただ単に低価格だけを求めているのではない事を業界全体で理解し対応すれば全く利益の出ない草刈り場と化したウエス市場をまた利益を追求する市場に取り戻すことが出来る。
そう、確信している。

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